1. 法的・規制上の考慮事項
ビットコインの区分: 日本ではビットコインは 「暗号資産」(旧「仮想通貨」)と定義され、法定通貨ではありませんが、財産的価値を有する決済手段として法的に認められています。証券ではないため、有価証券取引法(FIEA)の規制対象には通常該当しません。暗号資産に関する規制監督は金融庁(FSA)が担い、主に顧客資産を扱う業者に対して監督を行います。
企業による保有: 企業が自社のバランスシート上でビットコインを保有すること自体は 合法 です。外国通貨や商品と同じく、投資資産として購入・保有できます。自社資産を保有する限り、暗号資産交換業の登録要件は原則不要です。
規制枠組み: 重要なのは 資金決済に関する法律(PSA) で、これは暗号資産の定義と交換業登録義務を定めます。登録義務は 「暗号資産交換業」(他人のために暗号資産を売買・保管・仲介する事業)に該当する場合にのみ発生します。自社資金でビットコインを取引・保有する場合は該当しません。
AML: 1 回あたり 3,000 万円超の暗号資産を国外送金・受領する場合は、外国為替及び外国貿易法に基づく報告義務が生じ得ます。取引履歴とリスク管理体制を整備しましょう。
その他: ビットコインでの支払い・受取りは合法で、双方の合意があれば物々交換と同様に処理されます。給与支払い等で使用する場合は労働基準法や源泉徴収義務を考慮し、円換算による適切な税務処理が必要です。
2. ライセンス要否
財務保有: 自社の資金でビットコインを購入・保有するだけなら FSA への登録や免許は不要 です。暗号資産交換業に該当するのは、
- 他人のために暗号資産を売買・交換する、
- 他人の暗号資産を預かる(カストディ)、
- 取引の媒介・代理を行う、
などの場合のみ。
自社での保有・利用はこれらに当たりません。購入時は FSA 登録済みの取引所(bitFlyer、Coincheck、Binance Japan など)を利用し、自社は取引所の「顧客」として取引します。
支払い利用: 商品・サービスの決済手段としてビットコインを受け取る、または支払う場合も交換業には該当しませんが、消費税や労務管理の観点で円換算額を適切に計上してください。
3. 税務上の取扱い
法人税: ビットコインを売却して得た 実現益 は法人所得として課税対象(約 30% 前後)となり、損失は損金算入できます。
未実現益課税の廃止: 2024 年度税制改正により、企業が第三者発行の暗号資産(ビットコイン等)を長期保有する場合、期末時点の未実現含み益は課税対象外 となりました。売却等で実現するまで課税されません。
売却・支払時の課税: ビットコインを売却したり、支払いに使用したりした時点で 譲渡とみなされ、取得価額との差額が益金または損金として計上されます。
会計処理: 日本基準または IFRS では、ビットコインは通常 無形固定資産 として取得原価で計上し、価値が下落した場合は減損処理を行います。価格上昇による再評価益は計上しません(売却時に反映)。
消費税: 2017 年以降、暗号資産の売買は 消費税非課税 です。
4. カストディとセキュリティの最善策
- コールドストレージ: 総保有量の 95% 以上をオフライン保管し、ハッキングリスクを最小化。
- マルチシグ: 2 of 3 署名など、複数鍵による承認方式で内部統制と冗長性を確保。
- ハードウェアウォレット: キーは専用デバイスに格納し、バックアップシードは金庫等で分散保管。
- 内部統制: 職務分掌、二重承認、監査ログ、アドレスホワイトリストを導入。
- 専門カストディ: Nomura 系の Komainu、BitGo ソリューション、国内信託銀行の暗号資産カストディサービス。
- 保険と DR: 盗難保険、障害時復旧手順を整備し、定期的にバックアップ復元テストを実施。
5. カストディ・監査・会計の推奨プロバイダ
| 項目 | 主な日本拠点プロバイダ | 特徴 |
| カストディ | Komainu (Nomura) / BitGo / 国内信託銀行 | マルチシグ、保険、FSA 準拠 |
| 監査 | PwC あらた / デロイト トーマツ / KPMG あずさ / EY 新日本 | 暗号資産残高確認・キー検証 |
| 会計・税務 | Big4 税理士法人、専門税理士事務所 | 暗号資産会計処理、NTA FAQ 対応 |
6. ビットコインを財務資産として保有する日本企業の事例
| 企業名 | 保有量・時期 | ポイント |
| Nexon | 1,717 BTC(2021/4) | インフレヘッジ、現預金の 2% |
| ANAP | 約 100 億円相当 BTC(2025/4) | 長期保有戦略、取締役会承認 |
| Remixpoint | 約 1,000 BTC(2025/6 時点) | 事業シナジー(BITPoint) |
| MetaPlanet | 8,888 BTC 保有、最大 21 万 BTC 取得計画 | 2027 年までに世界 2 位規模へ |
これら企業は共通して「円安・インフレヘッジ」「ポートフォリオ分散」「長期保有」を掲げ、株主・取締役会の承認を経て透明性を持って導入しています。
まとめ
- ライセンス不要: 自社保有なら交換業登録は不要。
- 税制優遇: 2024 年改正で未実現益課税が撤廃。
- セキュリティ最優先: コールドストレージとマルチシグ、専門カストディを活用。
- 専門家連携: Big4 会計士・税理士、信託銀行と協働しガバナンスを強化。
- 先例企業が増加: Nexon、ANAP などの成功事例を参考に、長期戦略としてビットコインを組み込む。
ビットコインを日本企業の財務戦略に採用することで、インフレ耐性と資産多様化を図り、未来志向の財務ポートフォリオを構築できます。適切な規制遵守と堅牢なセキュリティ体制を整え、社内外のステークホルダー信頼を確立しましょう。